386-pc-main

ジョン・ファブロー監督
『カウボーイ&エイリアン』

異人としての家族

文=

updated 10.12.2011

どうしてこういう企画がこれまでになかったのか不思議、という意味の惹句が付されているが、たしかに「エイリアン侵略もの」が、「圧倒的な力の差によって人類が滅亡の危機に瀕する」ジャンルだとすれば、西部劇の時代を舞台に求めるのもさほど突飛なアイディアではない。今の人類が所有している武器のすべてを投入しても歯が立たないという状況の方が恐怖は盛り上がるわけだが、あまりにも貧弱な装備にも関わらず「知恵と勇気」で立ち向かうという方が、物語としての強度は上がるだろう。

であれば本来、本作の主人公=カウボーイが手首に装着している「異星人の武器」は、要らなかったのかもしれない。とはいえ、リアル志向の極まった昨今の映画表現状況であるし、それなしでは、拳銃一丁で抵抗することの説得力を担保できなかったのだろう。なにしろ、エイリアンそのものや飛行物体の圧倒的な破壊力やスピードは、CGを前提に眺めていても、時折スタントマンのことを考えてヒヤッとさせられたりもするレベルに達しているのだから。

と、なかなか煮え切らないことを書いてきたが、全体としてはそれなりに楽しめるポップコーン・ムーヴィーに仕上がっている。ウェスタンの基本的な設定から始められていて、お馴染みの景色や出来事を見る事もできる。その中で、SF的な造形物が唐突にあらわれる感じもちょっと可笑しくて面白い。

真の家族を形成しようとして仲間(=疑似家族)を捨てた男=ダニエル・クレイグは、その事実についての記憶を喪っている。そして、擬似的な大家族として町の経済をたったひとりで支える老人=ハリソン・フォードをはじめとする面々は、エイリアンに拉致されたそれぞれの家族を奪回するために、主人公の力にすがる形で行動を起こす。この場合の主人公は、家族を持たない(しかも記憶も持たない)アウトローという意味での「エイリアン」でもある。エイリアンに率いられて、エイリアンから家族を奪回する物語。そう考えると、「エイリアン」は、極めてわかりやすく、「家族」の鏡像として存在していることになる。もちろん、アフガニスタンなどにおいて、圧倒的なアメリカ軍の装備を前にしながら抵抗を続けている人びとの話にも見えてくるわけで、なるほど、本作の物語世界に飛来するエイリアンの唯一の弱点は、原住民たる人間たちを虫けら程度にしか考えていないこと、などというセリフが口にされたりもするのだ。

『カウボーイ&エイリアン』
10月22日(土)丸の内ピカデリーほか全国超拡大ロードショー

□ オフィシャルサイト
http://www.cowboy-alien.jp/

公開情報

© Universal Studios and DreamWorks II Distribution Co. LLC



初出

2011.10.12 10:30 | FILMS