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スティーブ・バロウ&ピーター・ドルトン
『ラフガイド・トゥ・レゲエ』

「レゲエ」という「モノ」

文=

updated 03.23.2011

レゲエがこんなリズムを刻むということや、それがジャマイカ産の音楽であること、彼の地の貧しさや(おそらく多くの旧植民地国と同程度に)ねじれた歴史やらが音楽そのものの中にくっきり刻み込まれている、というようなぼんやりとしたイメージを思い描くことが出来て、スカ、ダブ、ダンスホールという言葉を聞いてある程度の音像が脳内に浮かび上がる人間であっても、そうした断片的な知識がどのような時系列でどのように絡み合いながら現在の「レゲエ」という一語の背後に堆積してきたのか、ということについて、整然と説明出来る者は少ないだろう。

もちろん、どんな人間であってもおそらく「整然と」とはいかないのであって、だからこの微に入り細をうがち、かゆいところに手が届くような記述に満ちあふれた本書もまた「ラフガイド」を名乗っているのだろう。

歴史的な展開、各時代を作り上げたアーティストたちの評伝と作品、スタイルや思想や史実を指し示す数々のキーワード。数にすれば、1200名以上の固有名と1300枚のディスクが紹介されているというが、本書は辞書でもディスクガイドでもなく、そうした無数の点を縫い合わせ、束ね、縒り上げた、「レゲエ」というもはやひとつの「ジャンル」という次元を遙かに逸脱する、しかも「現象」と呼んでみたところでその具体的な実在性には遙かに及ばないという、ひとつの「モノ」についての読み物でもあり、「モノ」を「モノ」としてもう一度屹立させようという試みでもあるのだ。

だから、一ページ目から読破するのも良いが、本棚に挿しておき、思い立つたび気にかかった章に目を通すという読み方をしたところで、一向に価値を減ずることのない書物でもある。

『ラフガイド・トゥ・レゲエ』
スティーブ・バロウ&ピーター・ドルトン/監修:家永直樹/翻訳:二階優子、家永直樹/河出書房新社

□河出書房新社
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309271927

初出

2011.03.23 13:00 | BOOKS