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スティーヴン・ソダーバーグ監督
『エージェント・マロリー』

きっちり計算は行き届いている

文=

updated 10.03.2012

主人公の女性フリーランス・スパイを、本物の格闘選手が演じるというのが企画の出発点なわけだが、その事実を知らなかったとしても、リアリズム系ソダーバーグ節のスパイ・アクションとして、何ら違和感なく見終えてしまうだろう。時々、ヒロインの見せる筋肉の張りっぷりやロング・ショットでの肉体的プレゼンスの異様な高さに驚くことはあっても、“素人”が“美しく有能なスパイ”を演じる痛々しさはない。

だが主演のジーナ・カラーノというのは、まずはじめに、相手を本当に殴らないスキルをたたき込まれたという(そして実際に、撮影初期の段階では何人かを殴り倒してしまったらしい)、アメリカ女子格闘技界のスターなのだから、それも当然のことか。最初からスターには違いないのだ。

また、リアルに描けば描くほど地味になってゆく映画に華を加え、演技経験のないヒロインを支える上でまったく隙のない男性メインキャストたちの揃えっぷりにも、ソダーバーグの計算が行き届いていると言えるだろう。

ヒロインを傭う民間軍事企業経営者にはユアン・マクレガー、ヒロインと共にある作戦行動を共にする有能なスパイにチャニング・テイタム、ヒロインの父親はビル・パクストン、ヒロインの夫を演じるフリーのスパイにマイケル・ファスベンダー、そしてアメリカ政府内部の高官にマイケル・ダグラス。アントニオ・バンデラスの顔もある。

どのメンツも、「ヒロインの味方で居て欲しい」と思わず願わせられる魅力を持っていて、それは、誰がどのように裏切り、誰の欲望がどの陰謀を起動させ、ヒロインを追い詰めているのか、という謎が物語を進めてゆくこの作品においては、極めて重要な意味を持つ。

 

脚本は、『KAFKA/迷宮の悪夢』や『イギリスから来た男』のレム・ドプスが書いている。たしかに、時制の混在具合などは『イギリスから来た男』を思い出させるが、スタイリシズムに偏ってはいないので安心してもらいたい。ヒロインにはきちんとラヴ・シーンがあるし、最初から最後まで続く格闘シーンでは、ヒロインもガチでやられるし、なによりも物語の落とし前はキッチリとつけられ、昔懐かしいTVシリーズのような続編への期待感まで抱かせてくれるので。

そういうわけで、早く第二弾を見たいと思う次第。

☆ ☆ ☆

 

『エージェント・マロリー』
TOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国ロードショー公開中
配給:ファントム・フィルム
©2011 Five Continents Imports, LLC. All rights reserved
http://www.mallory-movie.com/index.html

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初出

2012.10.03 09:30 | FILMS