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テイト・テイラー監督
『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』

成熟した品のあるエンターテインメント作品

文=

updated 04.03.2012

「ヘルプ」とは「メイド」のことを指す。60年代のミシシッピ州を舞台にするこの作品ではもちろん、「黒人のメイド」ということになる。白人家庭に住み込み、あるいは通いながら家事と育児をこなしていた黒人女性たち。子供たちにとっては、母親同然と言うより母親以上に近しい存在であったりするのにも関わらず、彼らが成長すると共に「主人」と「使用人」の関係へと変化してゆく。その子供が女だった場合、結婚し、親から黒人メイドを譲り受け、自らの子の育児を任せることもままある。勤勉で料理が上手く、何よりも分をわきまえた者は、優秀なメイドとして、その雇い主が羨望されることもあるし、白人の雇用主間で取引の対象にすらなるだろう。同じ家屋内で生活を共にしていながら、「衛生上」の理由から、専用トイレを屋外に設置することを推奨する白人もいるし、その他細々とした「隔離」のディテイルはいくらでもある。

ただし本作は、そうした事実を詳らかにする社会派であるが故に優れているわけではない。全体としては、人種隔離政策時代のアメリカ深南部についての大雑把なイメージを裏切るものではないし、現代を生きる我々にとって人種隔離の「歪み」が「不正」であることは自明の理であって、倫理的次元で揺さぶりをかけられる種類の映画でもない。むしろ、「社会の不正に立ち向かう勇気ある人びとの物語」という、これ以上にないくらいストレートな、言い換えるならばものすごく「ベタ」なお話を、スマートに手際よく、だが「ベタ」なエモーションの力を最大限に起動させながら語って見せることに成功しているという点が素晴らしいのである。

しかも、先に挙げたように作中では「人種隔離の現実」に関するディテイルが細かく積み上げられていくわけだが、当然のことながらそれらのディテイルは極めて巧みに取捨選択されている。例えば、「被害者」である黒人社会にも、家庭内暴力などの矛盾や悪が存在しているが、作中そういったものの存在を示しはするものの、それを過剰に暴き立てることはしない。なぜなら、大筋にとってはある程度重要な背景以上のなにものでもないからである。それは映画全体について言えることで、最初から最後まで背景と前景の区別に、迷いやブレがない。しかも、白人=悪/黒人=正義という単純な塗り分けをすることなくひとりひとりの登場人物たちを際立たせながらも、社会の不正そのものの大きな輪郭がぼやけることはない。正義感に酔いしれわめき立てる式の映画にもなり得たテーマであるし、実際そういう作品をこれまで数多く目にしてきたことを考えると、これは、非常に成熟した(言葉の最も良い意味で)品のある映画、と言うほかないではないか。あたりまえのことだが、複雑なことを単純に見せるのは簡単ではない。

かくて、自らの帰属する南部上流社会の矛盾と己の加害者性に気づいたひとりの若い白人女性が始める闘いと、疑問を抱くことすら許されない逆境の中で勇気を振り絞りその闘いに参加してゆく黒人女性たちの物語が、誰が見ても楽しめる娯楽として、見事にまとめあげられているのである。

☆ ☆ ☆

『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』
TOHOシネマズシャンテ他全国公開中!
©2011 DreamWorks II Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

□ オフィシャルサイト
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初出

2012.04.03 11:30 | FILMS