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デイヴィッド・ウィーヴァー監督
『コンフィデンスマン/ある詐欺師の男』

必然性を体現する男

文=

updated 10.03.2012

25年の刑期をつとめあげ出所した、元詐欺師のフォーリー=サミュエル・L・ジャクソン。四半世紀の間に、仲間や友人たちはほとんど姿を消している。保護観察官との面談を定期的に挟みながら、建設現場という仕事場と、バーと、自宅の間を行き来するだけの孤独な生活をはじめる。

そこへ、彼が25年前に殺害した親友の息子イーサン=ルーク・カービーが姿を現す。当初は何食わぬ顔をしているが、やがてじわりじわりと距離を縮め、大がかりな詐欺計画に荷担せざるを得ない立場へと、次第にフォーリーを追い詰めてゆく。

暗い街角を行く男、寂れたバーの片隅で出会うどん底の男女、大盛況のナイトクラブの厨房で行われる残虐な殺人といった具合に、ノワール的要素が余すことなく並べられ、だがただ単にノワール的雰囲気だけを醸成するだけではなく、キッチリと陰謀を起動させ、物語をそつなく展開してゆく。一皮むけてもまたもう一皮現れる陰謀の核にあるのは何なのか? 主人公はいったいどこまでその中にはまり込んでいるのか? どのようにしてそこから脱出するのか? といった疑問によって、観客は素直に牽引されることになる。

そして言うまでもなく、このオーソドックスとも呼べる物語が単にそつのない物語にとどまらないのは、誰もが指摘するとおりサミュエル・L・ジャクソンその人に拠るものであり、ちんまりとジャンルを支えるにはとどまり得ないその肉体のプレゼンスが故なのだ。もちろんそれがスターということなのだが、単に小規模なプロジェクトがスターの登場によってスケール感を獲得したということでもない。本物そのものとしか言いようのないかんじ、すなわち必然性のようなものを、この映画にもたらしているのだ。

 

そのジャクソンを引き込みうる脚本を書き上げ、実際にジャクソンを巻き込むことでプロジェクトを完成させたという実績一つによって、監督デイヴィッド・ウィーヴァーの次回作を見たいと感じた。願わくば、プロジェクト規模がさらに大きくなり、破綻ギリギリにまで突き進んでもらいたい。

☆ ☆ ☆

 

『コンフィデンスマン/ある詐欺師の男』
10月6日(土)より銀座シネパトスほか全国公開
配給:ショウゲート
(C)2262730 Ontario Inc.
http://conman.jp/

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ビハインド・ザ・シーンは沖野修也さんです!

初出

2012.10.03 15:00 | FILMS