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マット・リーヴス監督
『モールス』

真っ当な愛

文=

updated 08.07.2011

オリジナル版である『ぼくのエリ 200歳の少女』は、監督トーマス・アルフレッドソンがジャンルに対する拘りを持っていなかったことが功を奏し、むしろ物語をいかにして語るかということが純粋に追求された結果、(未読のために想像でしかないが)原作にちりばめられた記号が効果的に集積されることで、謎めいた輝きを持つ、良作となった。

その謎めきの大部分は、周知のとおりジェンダー的な曖昧さに起因するのだが、それをすべて排除したらどうなるのか。それが、このマット・リーヴス版『モールス』なのである。

まず語り口という面では、オリジナル版が想像以上に忠実に踏襲されている。これはもちろんリーヴスの持つジャンル愛を考えると、きわめて正しい選択と言えるだろう。つまり、真っ当な愛を持つ者であれば、オリジナル版が奇跡的にこのジャンルの中に持ち込むことのできたものを、有効活用しないという判断を下すはずがないのであるから。

次に、前述のとおりジェンダー的曖昧さを排除することで、この映画はきわめてストレートな青春ものとなることに成功した。ここでは、少女は200歳であっても紛れもなく少女であり、少年は紛れもなく少年なのである。居場所を持たないという共通項の中でふたりは生きている。

かくて、美しく壮絶な、と直截に形容することのできる映画が完成した。リーヴスによる選択はすべて成功だったと言わねばならないだろう。もちろん、オリジナル版とリーヴス版のどちらを選ぶか、というのは好みの問題でしかない。しかし、その多くをオリジナル版に負っているとは言え、あるいは多くをオリジナル版に負うという判断を下すことが出来たが故に到達できた、本作のようなリメイク作品が、ほかにあまり類を見ない成功作であるということだけは、異論の余地がないだろう。

『モールス』
TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー

□ オフィシャルサイト
http://morse-movie.com/

公開情報

©2010 Hammer Let Me In Production.LLC



初出

2011.08.07 21:00 | FILMS