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マティス ヴァン ヘイニンゲンJr.監督
『遊星からの物体X ファーストコンタクト』

ともかくも、成功。

文=

updated 08.06.2012

見渡す限りの雪原を犬が駈けている。それを追跡するヘリコプター。搭乗者は狙撃を続けるが、犬は逃げ延び、アメリカの南極観測基地に辿り着く。というのがジョン・カーペンターによる『遊星からの物体X』の導入部分だった。

本作は、「ファースト・コンタクト」とタイトルで示されている通り、くだんの犬が雪原を駈け始めるまでを描く、“前日譚”として展開される。それ故、“後日譚”の方を知っている者は当然“前日譚”の結末を知っており、そこでどのような事態が発生するのかについてもおおかた承知していることになる。

すなわち、まずごくごく初歩的な指摘をしておくとするならば、この映画は“前日譚”ではなく、シンプルに“リメイク”として見られるべきなのだ。つまりは、「ただのリメイクはヤだよね。でも前作を見た人間にしか楽しめない映画もヤだよね」という企画者たちの議論が聞こえてきそうなのであるが、「ならば前日譚にしてしまえば、一挙両得じゃん!」という結論は、ひとまず正しかったと言うべきだろう。カーペンター版を見たことのない人間にとっても“見逃した”物語は存在しないわけだし、カーペンター版のファンにとっても、パズルのピースがピタリとはまる様を楽しむことができる。

そうした企画意図を含めて、映画の出来としては極めて生真面目な印象を与える。まさに、パズルのピースはピタリとはまっているのだ。ラストシーンはカーペンター版のファーストシーンにガッチリと連続するし、物語の展開もまた、古典へのリスペクトに充ちている。

プレスによると、カーペンター版におけるCGを用いない特殊効果の味を再現すべく、変身シーンではCGを、その後は立体造形物を駆使したという。かつて小学生だった筆者は、パカリと割れる犬やら虫のような身体に人間の顔といった造形に狂喜したものだったが、その感覚の記憶を遥かに呼び起こされもする。当然現在の基準に則って作られているので、クリーチャーたちはカーペンター版よりもその姿を目の前に晒してくれるし、もっと派手に暴れ回るのだが、上述のような工夫によって、興ざめするほどのやり過ぎ感はない。

一方、そもそもこの作品(一番最初の『遊星よりの物体X』とそのリメイクであるカーペンター版『遊星からの物体X』)においては、「誰がニセ者なのか?」という問いを巡る心理戦が核となっていたわけだが、その点については、今作における視覚面での健闘に比べると、努力の跡は大いに見られるもののやや見劣りすると言わざるを得ないだろう。「敵は誰になりすましているのか?」という冷戦期特有のパラノイアの有効性が薄まっている今日の世界においては、この程度の熱量で十分ということなのかもしれないが、であるならば、この時代の我々を規定しているパラノイアの核を発見し、導入してもらいたかったという気持ちも残る。

とはいえ、初心者からカーペンター版のファンまでを、ある程度安心して楽しませることが出来ているという意味では、リメイクもの、しかもプリクエルものとしては、単なる辻褄合わせに終始しない、志を持った成功作ということはできるだろう。

☆ ☆ ☆


『遊星からの物体X ファーストコンタクト』

TOHOシネマズ日劇モンスターナイトカーニバル第二弾として公開中
配給:ポニーキャニオン
© 2011 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved.

□ オフィシャルサイト
http://buttai-x.jp/

初出

2012.08.06 18:30 | FILMS