Cloud Atlas

ラナ&アンディ・ウォシャウスキー+トム・ティクヴァ監督
『クラウド アトラス』

壮大なプロローグ

文=

updated 03.14.2013

いくつかの物語が平行して語られる。ひとつは1849年に、奴隷売買契約を交わすため南太平洋を訪れる青年弁護士アダム・ユーイングの物語。もうひとつは1936年に、ユーイングの日誌を読んでいる音楽家ロバート・フロビシャーの物語。そして1973年のサンフランシスコでは、原子力発電所の暗部を暴こうとするジャーナリスト、ルイサ・レイの物語が、2012年のロンドンでは、ティモシー・カベンディッシュという老編集者の物語が進行する。さらに、2144年の“ネオ・ソウル”では、遺伝子操作によって人工的に産み出された“複製種”の女性ソンミ451の物語が展開し、そこからさらに長い年月が過ぎた2321年のハワイでは、文明崩壊後の世界を生きるザックリーの物語が進んでいる。そしてそれらすべてを回顧しているのは、どうやら年老いたザックリーのようである。

こうして、複数の物語が巧みに入れ替わりながら同時に進行していくのだが、ザックリー役のトム・ハンクスはすべての時代に遍在しているし、他にも多くのメインキャストたちが、複数の物語の中で生きていることが見て取れる。もちろんこれは、複数役にひとりの人間をキャスティングするといういわば楽屋落ち的なお遊びではなく、ひとつの魂が様々な時代に様々な人間となって生きてゆくというバックストーリーを語るための仕掛けとなっている。

それが最も顕著なのがトム・ハンクス演じるところの人物たちで、19世紀から21世紀にいたるまでは、ほとんど悪人として登場し続ける。そして24世紀の世界では、悪の囁きと良心との葛藤に苛まれる弱い人間として生きている。例外が20世紀のサンフランシスコで、その時代の彼は良心に従おうとする。つまりは、邪悪から善良へという修練を生きているのが、最終的にザックリーというキャラクターへと繋がる魂なのである。ことほど左様に、「あれ? このひとってあのキャラも演じてたな」と感じられる登場人物は、連関するひとつの魂を宿していると考えていい。

 

とはいえ、こうしたことをパズルのように読み解かなければ楽しめない映画というわけでもない。ひとつひとつのお話は極めてわかりやすい抑圧から解放への物語であるし、俳優たちの顔は特殊メイクが施されても一目でわかる固有名を刻み込まれている。バラバラに見える複数の物語のうねりはやがて同調し、映画全体のクライマックスを召喚する。ひとつの時代から次の時代へのジャンプも、映像や音や物語などなどのつながりを巧みに利用し、気持ちよく行われてゆく。そして172分という時間が過ぎ去ってみると、それ自体がひとつの大きな物語のプロローグに過ぎなかったということが判明し、それでもそこから始まる物語に思いを馳せてしまうというかたちで、いつまででも映画を継続させることができるという種類の作品なのである。

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『クラウド アトラス』
3月15日(金)新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
ワーナー・ブラザース映画配給
(C)2012 Warner Bros. Entertainment. All rights reserved.
公式サイト http://www.cloudatlas-movie.jp
キャンペーンページ http://ca-tsunagaru.jp/

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初出

2013.03.14 15:00 | FILMS