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リドリー・スコット監督
『プロメテウス』

(どういうわけか)面白い

文=

updated 08.24.2012

人類が未知の存在に遭遇する「ファースト・コンタクト」ものというSFのサブジャンルには、想像を絶するものを想像しようとするあまり、転倒のための転倒を生じさせるだけになったり、想像力の限界を露呈して陳腐さがより際立ってしまう、あるいは単に難解さだけを提示して終わってしまうといった具合に、いくつもの陥穽が潜んでいる。

人類以外の知的生命体との接触を求めて宇宙の果てに旅をするという意味では、この作品も「ファースト・コンタクト」ものに入る。だがプロローグにおいて早くも、人類によく似た存在が自ら命を絶つという情景があたりまえのものとして描かれることによって、この物語が「ファースト・コンタクト」そのものに力点を置かないということが、予め宣言されている。そもそも、『エイリアン』の前日譚であるという前情報を耳にしてしまっている我々は、どんな生命体に遭遇するのだろうという謎については、ほぼ回答を与えられているつもりで、この映画に接することになるのだから。

つまり全体を通して、「想像を絶する未知のもの」を提示しようという意志などハナから存在しないのだ。登場するあらゆるガジェットが、極めてリアルに見える、すなわちすべてどこかで見たことがあるようなかたちにデザインされているのも偶然ではない。惹句にある、「人類はどこから来たのか」という問いにしても同様であり、SFジャンルの中で幾度となく探求されてきたテーマが、現在のテクノロジー水準によって映像化されているということに過ぎない。例えば、スタニスワム・レムによって書かれた『完全なる真空』のような古典には、より端的なかたちでまとめられていたりする。

それでは果たしてこの映画が退屈なのかと言えば、まったくもってそうではないのだ。上映環境や席の位置によって大きく左右されるとはいえ、この映画ほど鮮明な3D映像を見たことはないと感じたし、その3D映像が劇中のガジェットの性能そのものとして活用されるなど、物語的な必然性という意味でも精度は高い。

もちろん「宇宙の果て」やら「未知の知的生命体」あるいは「怪物」といったものの存在に心躍らぬ者にとっては、退屈きわまりない作品かもしれない。謎の持つ牽引力や、主人公たちが生き延びるのかどうかというサスペンスだけで誰もが引き込まれてしまうという脚本ではない。そういう意味では『エイリアン』の持ち得た普遍性はない。

しかしながら世の中に、形は整い全体として瑕疵は少ないが「どうでもいい」という種類の映画と、全体としては歪だったり雑だったりするのに「(どういうわけか)面白い」映画というものがある。これは完全に後者に属する作品なのだ。

おそらく監督の意図した以上に見たことのあるもので埋め尽くされ、しかもどう考えても細部のしまりがゆるい脚本によって全体が進行するのだが、物語というよりも、そして未知のものを見せられているという興奮よりも、「こんなものを見たかった」という期待に次々添って見せる映像そのものの魅力によって、損をしたという気分にだけはならない。それは決してひねくれた映画の見方ではなく、むしろ真っ当な娯楽映画の歓びのひとつに近いのではないだろうか。まあ、つまりはあんまり圧倒的なものを期待せず、気軽に見れば結構面白いよ、ということなのだが。

ちなみに、いきなりスティーヴン・スティルスなんていう固有名が登場人物によって口にされ、劇中の2089年が、我々の生きる2012年と地続きであることが示されるというディテイルにも、この世界観の中ではちょっと意外なSF的手触りを感じさせられて楽しかったりもする。

☆ ☆ ☆

『プロメテウス』
8月24日(金)TOHOシネマズ 日劇ほか全国拡大公開
<3D/2D 同時上映>

□ オフィシャルサイト
http://www.foxmovies.jp/prometheus/mystery/
□ ミステリーキャンペーン
http://www.foxmovies.jp/prometheus/mystery/
20世紀フォックス映画 配給
(C) 2012 TWENTIETH CENTURY FOX

初出

2012.08.23 15:00 | FILMS