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北野武監督
『アウトレイジ ビヨンド』

アスペルガー的世界からの反作用?

文=

updated 10.05.2012

三浦友和の鈍く黒々とした顔の発見も素晴らしかったし、加瀬亮の線の細さの転換ぶりも面白かったが、なにより、どの作品でもただ単に“うまい”俳優としか感じさせることのなかった小日向文世にはじめて、その人間以外の何者でもないと思わせる役=刑事・片岡を与えたのが、前作『アウトレイジ』の見所のひとつだった。それもこれも、「全員悪人」というコンセプトによって成功したものに他ならない。そしてまた、「全員悪人」のはずが、ほんの少しだけ感情というか共感を起動させる、ほかならぬ北野武演じる役=大友だけが、そのコンセプトの綻びでもあった。

続編『アウトレイジ ビヨンド』では、その大友が中心となって物語が進む以上、全員がただひたすら怒鳴り合い殺し合い、陰謀にはめ合うという一見面白い場面だけを集めたかのように見えて実は精密機械のような機能ぶりを見せる前作での構成が踏襲されるわけではないことは、明らかなのである。つまり、「全員悪人」ではない。

ここでは、大友を中心とした男たちの不器用な復讐譚と、彼らを自らの手のひらの上で弄びながら都合のよい秩序を導入しようとする刑事・片岡がせめぎ合いながら、その意味では非常にわかりやすくオーソドックスな物語が、映画を展開させてゆくことになる。

 

前作が感情を一切持たないアスペルガー的な痛快さで我々を魅了したとすれば、今作はある意味アナクロの極みのような古臭い感情と絆で結ばれた男たちの話を共感と共に見守る楽しさで観客をとらえるということになるだろうか。

おそらくは前作での突き抜けぶりを解毒しようという意志があったのだろう。強引なアナロジーで言えば、ますますアスペルガー化してゆく同時代の若者たちの生態が持つ新しさや清々しさのようなものに惹き寄せられてみはしたものの、実際に近づいてみると「やっぱりそれはそれでなんか違うなあ」という反作用が起こって、泥臭いしがらみと情動に支配された世界に戻ってみたというところだろうか。実際、アスペルガー世代を代表する加瀬亮の役の扱いを見てみるとそんな感じではないか。

いずれにせよ、見て損はない。

☆ ☆ ☆

 
『アウトレイジ ビヨンド』
10月6日(土)より新宿バルト9&新宿ピカデリーほか
全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野
(C)2012『アウトレイジ ビヨンド』製作委員会

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初出

2012.10.05 09:00 | FILMS