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王兵(ワン・ビン)監督
『三姉妹〜雲南の子』

悲惨なだけでも牧歌的なだけでもない

文=

updated 05.29.2013

タイトル通り、中国の中でも最も貧しい地方のひとつとされる雲南省の、海抜3200メートルの高地にある村に生きる幼い三姉妹の姿を捉えたのがこのドキュメンタリーである。

10歳の長女・英英(インイン)は辛うじて女子とわかる服装と髪型をしているが、6歳の次女・珍珍(チェンチェン)と4歳の三女・粉粉(フェンフェン)は、髪の毛を短く刈られ、性別を示す記号はどこにも見当たらない。薄暗い屋内からどんよりとした雲に霞む草原にいたるまで、どこにいても長女が妹ふたりの世話をしている。両親の姿はない。しばらくすると、母親は数年前に失踪し、父親は町へ出稼ぎに行っていることがわかる。

この作品がまず面白いのは、「厳しい貧困の中けなげに生きる子どもたちと、貧しいがあたたかい大人たちの住む小さな村」のお話になるのではないかという警戒が、まったくの杞憂に終わる点だろう。実際のところ、そういうつまならない枠組みには全く収まらない。

まだ自分自身幼い長女が、妹のシラミを一匹一匹潰してやるという繰り返し捉えられる姿や、ひとりで学校の勉強をさらっていた彼女の姿を目にして「勉強なんかして!」と叱責する祖父の言葉ひとつに、困難な状況のエッセンスが収約されてはいる。だが、毎日の食に、絶望的に事欠いているわけではなさそうだし、家畜もいる。ジャガイモもごろごろと転がっている(それがほぼ唯一の農産物のようだが)。

そしてそんな子どもたちを、周囲の大人全員が優しく見守っているわけではない。例えばひとの家を訪ねると、そこの子どもが、食べ物を英英にお裾分けしようかと母親に提案するのだが、それに対する応えは、「あげなくていい! それだけしかないんだから」というものに過ぎない。

学校の校門を出たところには、子どもたちに駄菓子売りが地面に店開きしていて、級友たちは買い食いしまくっているが、長女はただそれを物欲しそうに眺める。そんな彼女の様子に気を止める者は、大人を含めてひとりもいない。なによりも、80家族しか住んでいない小村であるにもかかわらず、家畜は盗まれるし、家には鍵をかけておかなければ安心して外出できないようなところなのだ。

 

では、世知辛いだけかと言えば、そうではない。収穫を祝う宴には老若男女の村人が集まり、豚肉をたっぷり使ったごちそうが和やかに供される。その図には、世知辛さよりも、牧歌的なものの方が濃く感じられる。また、家畜を追う男子と英英との会話は、『となりのトトロ』でのサツキとカンタを思い起こさせられる素朴なかわいらしさがある。

かと思えば、路上で突如、胸ぐらを掴んでの女子同士の小競り合いがはじまったり、そこに相手の子の親までもが参加してきたりするので、油断ならない。大人に対して微塵も揺るがず反論する英英の姿には胸のすくような気分も感じられるだろうし、いつも以上に剣呑に光るその鋭い目つきに末恐ろしさを感じたりもするだろう。

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初出

2013.05.29 09:30 | FILMS