Vol.10 “MTV感覚”の……

文＝川本ケン

1985年あたりのことを思い出してみると、たしかに一日中MTVが垂れ流しになっていた。マドンナ、マイケル・ジャクソン、デュラン・デュラン、カルチャー・クラブなどなど、一時期多発されていたいわゆる「80sヒット曲集」的なコンピに収められている曲のすべてが、日に何度も繰り返し放映されていた。

しばらくすると、TVでは『マイアミ・バイス』（84～85）が放映され始める。いわゆる「MTV感覚」の嚆矢であり、事件発生から悪者を捕らえておしまいという単純な構成ではなく、なにしろ製作がマイケル・マンなので、当時の基準からすればかなり“リアル”な物語や銃器描写の上にヒット曲が被さるという趣向だった。当時の中学～高校生たちはあたりまえのように、伸ばした両腕で拳銃を握り、下方に向けたまま腰を低くして壁際を前進するといったドン・ジョンソンらの姿勢を真似したものだった。もちろん、頭の中で鳴っているのは、MTVでさんざんに聴いてきた曲たちである。

しかしそれもこれも、原理主義的な映画ファンの間で、「MTV系」の作り手が嘲りの対象となるはるか以前のこと。いまでは、一巡りして「MTV感覚」がカッコイイ、とまではされないが、まともな映像表現技術を身につけ、しかもサーヴィス精神のある作り手は「MTV出身者」に多い、という認識が共有されているというところに落ち着いているかんじか。

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