周知のとおり2009に公開されたJJによるこの新シリーズ第一作目は、コアなスタートレック・ファンを満足させつつ、彼らの存在を薄気味悪い秘密結社と感じてしまうような一般人をも同時に楽しませるという、極めて困難な目標を設定し、それを見事にクリアした作品だった。
時間軸を引き戻し、パラレル・ワールドものの設定を導入することで単なるリメイクでもなく、勝手な作り直しでもないものにするというその方法論は、誰もが思いつきそうで思いつけなかったというより、コアな『スター・トレック』マニアであればオリジナル・シリーズへのリスペクトのあまり踏み出す勇気を持てなかったはずの、そういう意味では、ジャンル的には極めて王道であるし、JJのプロデューサー資質からすれば真っ当きわまりないアイディアだった。
さて、それから4年ほどが過ぎて公開される第二作目である『スタートレック イントゥ・ダークネス』ではまず、IMAXで撮影された3D映画にするという、ヴィジュアル面での大きなヴァージョン・アップがはかられている。正確には、屋外のシーンはIMAXで、屋内のシーンは35ミリでアナモルフィック・レンズを用いて撮影し、それらを3Dに変換してある。要するに画質が異常に良いということなのだが、もちろんそれだけではすぐに飽きるわけで、見世物としての派手さを、物語を語るための手段として十全に活かしているということなのだ。
ではそこで何が語られるのか。それは、当然のことながら第一作の延長線上で、人間がこれまで幾度も直面してきた、普遍的ともいえるし、これまた王道ともベタともいえる倫理的な葛藤を軸に展開される物語なのであった。「イントゥ・ダークネス」の副題通り、暗黒の深淵を覗き込む行為そのものでもあるだろう。と書き付けるとしかつめらしく響いてしまうが、もちろんそのほとんどすべてが登場人物たちの全力疾走と殴り合い、巨大建造物の崩壊と大爆発、アツいエモーションとシニカルな笑いの連続によって構成されていて、時折核に存在する上述の葛藤すら忘れかけるのだが、そのたびに物語の背骨がグイッと映画をたぐり寄せる。つまりは、すべてが当たり前のように過不足無く機能しているのだ。
つくづく、圧倒的なポピュラリティを獲得する「画期的なアイディア」というものは、誰もが「それ知ってた!」と感じる種類のアイディアなのだということを感じさせられる。全く未知なものは、誰にも理解されないし、そもそも気づかれもしないで姿を消すほかないのだ。どれだけディープでコアなものでも、見せ方一つで一般性を獲得することができる。そんな図々しい居直りと強引さこそが、娯楽には必要とされている。なんてなことは当たり前なんだけど、なかなかできることでもないし、忘れている人間もあまりにも多い。という余計なことまで考えてしまった次第。
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『スタートレック イントゥ・ダークネス』 8月23日(金) 全国公開 公式サイト http://www.startrek-movie.jp/index.php パラマウント ピクチャーズ ジャパン (c) 2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved. |
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初出
2013.08.23 09:30 | FILMS