80年代半ばのペルーでは、極左ゲリラが跋扈していて、送電線が爆破された停電の中、ロウソクを点して食事をしていると、さほど遠くないところで乾いたマシンガンの発砲音が響いたりしていたし、高級住宅街の真ん中に建っていたキューバ大使館は要塞のような塀に囲まれ、夜間は警備のライトによって煌々と照らし出されていた。
ジョン・ミリアスの『若き勇者たち』(84)に興奮させられたのは、サヴァイヴァルもの、戦争もの、青春ものという、男子中学生の好物がすべて詰め込まれているからだけではなく、たしかにそういう環境で見たからなおさら、ということはあったにちがいない。
だから、うすぼんやりとしかわからない英語のセリフとスペイン語字幕をかすかな手がかりにして、ほとんどはただひたすら映像を解釈することだけで物語を想像しながら見ていたにも関わらず、ラスト、敵のキューバ軍人がとる行動が胸に沁みたのだろう。『レッド・ドーン』を見ながら、久しぶりにそんな幼年時代の記憶が蘇った。
いつもと変わらぬ授業中、ふと校庭に目をやると、無数のパラシュートが降下してきている。というシーンから、あっという間に阿鼻叫喚の戦闘がはじまり、主人公たちは命からがらの脱出する、という富野由悠季作品の数々にも匹敵する秀逸な導入部は、今作にはない。
そのかわり、パラシュート部隊は町に降下する。空を黒く覆い尽くすというイメージの拡大を図ったのだろうが、残念ながらそれは、日常の延長線上であっけなく戦争状態が始まるという興奮を超えられるものではなかった。そして先ほども触れた、オリジナル版のラストが持つほろ苦い味わいもまた、このリメイク版では排除されている。
アクションに緩みはないし、予算は限られていたはずなのに、街中での戦闘など、派手な視覚効果が必要な部分についても破綻無く仕上げられている。そしてなによりも、海兵隊員であるところの主人公兄弟の兄によって行われる山中の訓練シーンを見ていると、久しぶりにサヴァイヴァル・ナイフ一本で野山を駆け回りたい気分になってくる。
主人公兄はイラク帰りで、「立場が逆転した」というようなセリフを吐いたりもするのだが、まあ、攻め入る敵が北朝鮮であることの是非は、この際どうでも良いだろう。ただでさえイスラム教徒が迫害されがちな現代のアメリカにおいて、もっとも当たり障りのない敵だったのが北朝鮮、という結論に至る企画会議の様子が目に見えるようだ。
政治的な正しさを求められる昨今の映画において、ギリギリがんばった設定とはいえるだろう。しかも、アジア系アメリカ人に配慮して、端役であってもなかなかおいしい役を韓国系に振るという注意深さもある。
つまるところ、今さらオリジナルと比較しながら見る必要もないし、その磁力から逃れることさえできれば、そうそうバカにしたものではない。面白い娯楽映画として健闘しているのである。
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『レッド・ドーン』 10月5日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー 公式サイト http://reddawn-film.com©2012 UNITED ARTISTS PRODUCTION FINANCE LLC. ALL RIGHTS RESERVED. RED DAWN IS A TRADEMARK OF METRO-GOLDWYN-MAYER-STUDIOS INC.AND USED WITH PERMISSION.ALL RIGHTS RESERVED. 配給:クロックワークス |
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初出
2013.09.04 09:00 | FILMS