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ニコラス・ウィンディング・レフン監督
『オンリー・ゴッド』

面白くないのかと問われれば、面白いと答えよう

文=

updated 01.23.2014

なにかとんでもないことが起ころうとしている。それが何なのか一向にわからないが、取りかえしのつかないことが起こりつつあるという圧倒的な気配だけが空気をふるわせている。

これはデイヴィッド・リンチの新作だったっけ? とつい首をひねってしまうくらいに不穏なテンションだけが高まっていく。空っぽの廊下に向けられる視線。その廊下をじんわりと進むカメラ。赤と青の灯り。涙ぐみながらカラオケを熱唱するおっさんとそれを静かに見守る制服警官たち。

いや、何が起こっているのかがわからないのではない。今我々が目にしているのはムエタイの試合だし、その会場を経営していると思しき白人たちの姿やそのうちのひとりが街に繰り出し、売春婦を惨殺するということに曖昧な点はなにもない。その現場に現れるひとりの警官(チャン=ヴィタヤ・パンスリンガム)。その導きにより、売春婦の父親は白人を嬲り殺す。やがて降り立つ白人女。二人の母親である彼女は、生き残った弟(ジュリアン=ライアン・ゴスリング)に復讐を命じる。

警官は正義の暴力を、白人は復讐の暴力を行使する。行使された暴力をそのまま行使した者に償還するのが復讐であるし、正義とは犯された罪に値するものを返還する行為である。それ故、復讐と正義は現象として同義語となる。かくて、ジュリアンとチャンとの、合わせ鏡のような戦いが続く。

悪趣味なまでの暴力にみちているし、どう考えてもノワールというカテゴリーの中に入る要素だけで物語は構成されているのだが、イヤというほど過剰なスタイリッシュさと、ほぼ精神障害の域に侵入しているとしか思えない不穏さの強度によって、この映画が結局のところどこに着地するのか、最後までスリルが途切れない。しかもそんな風に大まじめな顔つきをしているくせに、いや、だからこそ、最初から最後までクスクス笑いを絶やすこともできない。

 

『ドライヴ』は、よく勉強しているしセンスの良い映画だった。つまり安心して眺められる映画だったわけだが、この作品の場合、笑って良いのか、アクションに痺れて良いのか、暴力を楽しんで良いのか、ギリシャ悲劇的な復讐と近親相姦の話を堪能すれば良いのか、一向にわからない。わからないといえば、冒頭のクレジットもすべてタイ語だし、そもそもこの映画を成立させたモノの正体が、まずわからない。

だが、まったく持って悪くない。「これこそが映画である」と作り手に言われたら、そんなことはないし、「これは隘路のような映画であって、この先に道は開けていない」と即座に答えるだろうが、面白くないのかと問われれば、面白いと答えよう。楽しくないのかと尋ねられれば、けっこう楽しいと答えよう。そんな映画である。

☆ ☆ ☆

『オンリー・ゴッド』
1月25日(土)、新宿バルト9他全国公開
オフィシャルサイト http://onlygod-movie.com/
(C)2012 : Space Rocket Nation, Gaumont & Wild Bunch
配給:クロックワークス、コムストック・グループ

 

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初出

2014.01.23 10:00 | FILMS