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ロブ・ゾンビ監督
『ロード・オブ・セイラム』

それが現実のものであるという呪い

文=

updated 09.30.2013

1692年、悪魔を呼び出そうと儀式を執り行う七人の女たち=「Lords of Salem」の姿から物語は幕を開ける。その後間もなく我々の視線は、現在のセイラムに移り、地元ラジオ曲でDJをするひとりの女性(シェリ・ムーン・ゾンビ)の姿を追うことになる。

彼女は薬物依存症を持ち、回復に努めている(そう、ここでもまた、依存症が、悪魔がこの世に侵入するための鍵穴となるのだ)。明け方まで働き、昼間は寝てすごすという彼女の日常の大部分は夜の闇の中で過ごされていてる。

そんなある晩、ラジオ曲に一枚のアナログ・レコードが届けられる。それを自宅に持ち帰り、戯れにターンテーブルに乗せて見たところ、奇怪な音楽が流れ始め、彼女の頭の中では不気味なイメージが閃く。

さらには、それをラジオ電波に乗せたところ、町中の女性たちの頭の中にも同様なイメージが伝播してゆく。やがてそれは、かつて処刑された「魔女」のひとりによってかけられた「呪い」であることが明らかになる……。

このように、極めてオーソドックスな筋書きを持つのだが、もちろん、だからといってこの映画がオーソドックスに作られているわけではない。映画の大きな部分は、依存症治療からスリップ(脱落)したヒロインが体験する強烈なバッドトリップと、その悪夢が現実そのものであったという絶望的な結末ないし開放部に向けて畳みかけられる、イヤな映像のトッカータとでも呼びたくなるシークエンスに次ぐシークエンスで構成されているのだ。

やがてすべてが終わった後、あたりまえのような夜明けが訪れる。実はさほど味わい深くもない凡庸な町の昨日と変わらぬ景色は、すべてが変わってしまったことを知らないが故に凡庸と見えるに過ぎないという禍々しさ……。

 

『マーダー・ライド・ショー』が骨格から遊離した映像に耽溺する事に終始していたのに対して、今作ではそれが、依存症治療者の抱えるスリップの悪夢そのものであり、その過程で薬物によって引き起こされる永遠に終わらないバッドトリップでもあり、しかもそれが現実にほかならないという呪いそのものでもあるという構造が微塵も揺るがない。だから、映像的な戯れからはほど遠い強度が、最後の最後まで維持されるのである。

映像に拠った『マーダー〜』の失敗を、『デビルズ・リジェクト マーダー・ライド・ショー2』(05)以降の語りに特化した作品群で乗り越え、その過程で獲得した腕力を用いて再び映像とガッチリ向き合ったのが今作だとすれば、ロブ・ゾンビは今、明らかに二重の力を手に入れたということができる。次作では、これまでのフィルモグラフィーをもう一段踏み越えたものを見せてくるものと、今から期待していてよいだろう。

☆ ☆ ☆

『ロード・オブ・セイラム』
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー公開中
公式サイト www.salem.jp
©2012 Alliance Films (UK) Limited, All Rights Reserved.
配給:ショウゲート

 

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初出

2013.09.30 09:00 | FILMS