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ジェイムズ・ワン監督
『死霊館』

やっぱりちょっと薄気味悪い

文=

updated 10.10.2013

ジェームズ・ワンは典型的な職人監督気質の人だと思っていたが、幽霊屋敷ものへのオブセッションを見ると、そうとばかり簡単には言えないのかもしれない。

前作『インシディアス』はすでにして、『パラノーマル・アクティヴィティ』までの幽霊屋敷ものの最大公約数をアップデイトしたものとでも言うべき作品だった。だがこの『死霊館』はまたしても幽霊屋敷もので、しかも前作同様現時点までのこのジャンルにおける表現方法、テクニックをすべて投入し、かつその中の要素どれひとつをとっても過剰にならないようなバランスで撮り上げられている。

ひとことでいえば、とても良くできた幽霊ものの教科書のような作品なのだ。同じジャンルの作品を一定以上のクオリティで次々繰りだしてくるのにも関わらず、そこになんの過剰な自意識が表出しない、という意味ではたしかに職人監督なのだが、その徹底ぶりが、今日の基準ではちょっと普通ではない。というか少し薄気味悪い。

なにしろ、『インシディアス』よりも出来が良いのかと問われれば、良いと答えるほかないのだが、なにか新しいものがあるのかと訊かれたら、ない。そんなもの、目指してすらいない。気配にはじまり、影がちらりと見え、それが結像し、やがて実体が出現するという各段階がすべて滞りなく進行し、最終段階では対決にいたる。

あらゆる点でジャンルの規則に忠実な、予想=期待の範囲内での展開を見せる。それなのに、映画の隅々にまで失敗がないため、つまりは精密な工芸品のように機能している。機能しているが故に、たしかに怖い。

今回は、実在のゴースト・ハンター夫婦が、実際に出会った事件を基にしているという補助線が引かれるのだが、映画そのものがあまりにこともなげに機能しているので、いったいそんなものが必要だったのだろうかという気にもなってくる。だがたしかに、「実話に基づく」という断りが先に入ることで、昨今の映画が自動的に求められてしまう“リアルさ”を担保するための仕掛けはほとんど不必要となる。

 

例えば、最終的に悪魔に取り憑かれる人間が当初から薬物依存症を抱えているとか、過去に性的虐待のトラウマを持つとかなんとか、そういう“現代風”の言いわけがいらない分だけ、映画は自然とタイトでクラシックな仕上がりに近づく。

いったいワンはなにをしたいのか。プロとしての仕事をしているといわれればそれまでなのだが、この調子で、じわりじわりとクオリティを上げながら同じジャンルの作品を撮り続けていったら、ある日突然奇跡のように別次元の映画が出来上がってしまうということもあるのだろうか? そんなことが起こらなかったとしても、きちんと楽しめる幽霊屋敷ものが連発されるだけで観客としては十分ではあるのだが、それでもやはりそんな妄想はしてしまう。

☆ ☆ ☆

『死霊館』
10月11日(金)、新宿ピカデリー他ロードショー
公式サイト http://www.shiryoukan-movie.jp
公式Facebook https://www.facebook.com/shiryoukan
Twitterハッシュタグ #死霊館は最恐
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初出

2013.10.10 15:00 | FILMS