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ソフィア・コッポラ監督
『ブリングリング』

ぐらぐら揺れまくる

文=

updated 12.04.2013

「窃盗癖」という病を知ってか知らずか、この映画の作り手は(すなわちソフィア・コッポラということになるが)、対象から極めて微妙な距離をおく。いや、むしろほとんど失敗かと見紛わんばかりにぐらぐら揺れまくっていると言った方がいいだろう。

主人公たちが違法行為の側に飛びこみ昂揚しまくるところでは、映画の方もまた全身で盛り上がるし、その直後ふとわれに返ったという風にして時間軸を飛び越え、事後に主人公たちを取材するジャーナリストという中間的視点を差し挟んで見せたりする。

だからといって、そこから強烈に風刺的な、あるいは冷めた分析的な視線が照射されるということはない。美意識やカッコよさに淫し切ったり、少女たちのかわいさだけに夢中になるということもない。その意味では、サスペンスもカタルシスもない。ただ、お祭りとしての侵入強盗の楽しさにハマり、歯止めが効かなくなって手柄を喧伝し、当然の帰結として警察に捕まった高校生たちの姿があるだけなのだ。

それだけなのに、上述のようなことをつらつらと考えさせるだけの材料を提供し得ているところに、この映画の誠実さと素材選別眼の確かさ、すなわち構成力がある。

 

しかも、「で、結局この映画は面白いの?」という問いに対しては、面白いとしか答えようがない。なぜなのか。それは、この映画を見て、この物語に触れる者全員が、主人公たちに対してこの映画と同じ距離感=揺れを持ってしまうからだろう。

心霊スポットに足を踏み入れたり、「立入禁止」札の先に侵入してみるときの興奮を強烈に思い出す瞬間もあるだろうし、好奇心と蔑みが入り交じった“セレブ”への気持ちにシンクロし、彼らの被る“被害”を小気味良く感じることもあるだろう。

同時に、やすやすと警察に捕まり、その過程で救いがたいバカさかげんを剥き出しにする主人公たちを嘲笑したい気持ちにもなるだろう。だが、「メディア化された高度消費社会の歪み」などという下らないご託だけは口にする気がしない。それが、この映画の持つ誠実さなのだ。

そういうわけで、ソフィア・コッポラのフィルモグラフィーの中では、かなり上位に位置する作品である、と記しておきたい。

☆ ☆ ☆

『ブリングリング』
12月14日(土)、渋谷シネクイント他にて全国順次ロードショー
公式サイト blingring.jp
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初出

2013.12.04 10:00 | FILMS