958-pc-main21

ダニー・ボイル監督
『トランス』

ボイルを縛り上げてみる

文=

updated 10.10.2013

無事に犯行を終えたフランクがバッグを開くと、その中には空っぽの額縁だけがある。再び激昂したフランクはサイモンに絵画の行方を問い詰めるが、頭部を強打したため、彼の記憶は一部が失われている。どう処分したかがわからないというのだ。そこで記憶を回復させようと、フランクらによる監視下、サイモンは催眠療法士エリザベス(=ロザリオ・ドーソン)のクリニックを訪れることになる。

という具合に、物語が進めば進むほど、新しい貌がひとつまたひとつと出現する。それにつれて登場人物たちもまた、次から次へと別の顔を顕してゆくことになる。それは当然、少しずつ蘇るサイモンの記憶とも同期していて、そういう意味では、すでに発生してしまった物語が少しずつ見いだされることによって展開してゆくのが、この映画の物語ということもできるだろう。

結果、映画全体としてはどういうことになったのか。答えは、「わりと普通」というものだ。

語るべき物語を語ればよかったこれまでの作品では、とにかく自由奔放に跳ね回り、破綻ギリギリまで駆け出しては踏みとどまったり、そこからまた突然駆け出して見せたりワープしたりと無邪気に映画と戯れていたボイルが、ここでは上述の理由によって自ら手足を縛って見せた上で、一歩また一歩、あるいは一枚また一枚と物語のレイヤーを紐解くことに腐心している。

 

もちろん、不器用なわけではない。そもそも鍛え上げられた豪腕の持ち主なのだから、たどたどしいはずがない。いつものボイルのりを期待する向きには多少食い足り無さを残すかもしれないが、一本の多層レイヤー型サスペンスという風に見れば、うまく撮り上げられているとしかいえないし、辻褄があわないように感じられるところを指摘することも含めて、楽しめるだろう。

だがこの作品を見てしまうと、いっそもっともっとボイルをがんじがらめにする物語構造を与えて、見た目は極端に普通の映画なんだけど中身は根本的に異常、という域にまで追い詰めてみたい気分にもなる。うまくいけば、かなり面白い映画になると思うんだけど。

☆ ☆ ☆

『トランス』
10月11日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、シネマカリテ他全国ロードショー
公式サイト http://www.foxmovies.jp/trance/
©2013 Twentieth Century Fox

 

ダニー・ボイル監督『トランス』【TOP】へ
INDEX 12

☆特別号「MY NAME IS BEAMS」記念トークショー志茂田景樹の「Twitter人生♡相談」ライブ編のご案内

関連記事:ダン・ブラッドリー監督『レッド・ドーン』
関連記事:ロブ・ゾンビ監督『ロード・オブ・セイラム』
関連記事:白石和彌監督『凶悪』
関連記事:スティーヴン・ソダーバーグ監督『サイド・エフェクト』
関連記事:ユン・ジョンビン監督『悪いやつら』
関連記事:J・エイブラムス監督『スタートレック イントゥ・ダークネス』
関連記事:宮崎駿監督『風立ちぬ』

初出

2013.10.10 08:30 | FILMS