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Peter Berg Interview

ピーター・バーグ監督 インタヴュー
『バトルシップ』

天然の豪腕

インタヴュー・文・ポートレート=川本ケン=

updated 04.10.2012

ピーター・バーグ監督作品と言えば、ウィル・スミス主演『ハンコック』(08)は、ダメな「スーパー・ヒーロー」が主人公という点では、ちょっとしたヒネリが加えられているように見えるものの、実は「不慣れなスーパーマン」が主人公であった80年代のTVドラマ『アメリカン・ヒーロー』とちょうど重なりあうという意味では、ド真ん中の直球アクション・コメディであった。そして、その前に撮られたジェイミー・フォックス主演『キングダム/見えざる敵』(07)もまた、実際に起こったテロ事件に着想を得た社会派というよりは、どこまでもストレートなアクション映画だった。共通しているのは、ジャンルとストレートに向き合う姿勢と、破壊シーン演出における重さフェチとでも呼べそうな圧力の異常な高さである。

それは『バトルシップ』においても変わっていない。いや、変わっていないと言うよりも全開であった。連続着弾した後一拍置いてから炸裂するという、エイリアン母船の放つ奇妙な砲弾の手触りにはじまり、巨大戦艦のメカニックなディテイルなどなど、とにかくあらゆる次元において、今まで以上に、大爆笑するほかない剛速球のストレートぶりだったのだ。

とにかく、エイリアン来襲という大状況を引き起こしておいて、「戦艦」というタイトルをとことん裏切らない。もちろんこの映画は、そもそも昔懐かしい海戦ゲームをベースとしているので、「海戦」そのものを避けるわけにはいかなかったということはわかる。だがそれでも、ある程度の比率で艦隊戦を見せた後ならば、若干そこから離れることも許されるのではと観客が考えるその先の、最後の大決戦に至るまで、徹底して「海戦」から離脱することはないのだ。

「とにかく、リアルであると同時に楽しい映画にしたかった。12歳の息子が喜ぶようなね。彼が喜んだかって? 大満足してくれたよ。なにしろ編集作業中には、息子と友人を遊びに来させていたんだからね。出来上がりつつあるシーンを見せては、面白いかどうか尋ねていたんだ。子供は正直だよ。面白ければ大歓声だけど、つまらなければ<クソだ>とハッキリ指摘してくれる。女性のような嘘はつかない(笑)。まあ、家族向けに作ったから、暴力は控えめにしたんだけど、ところどころちょっとやり過ぎたところもあるかな。ついつい地が出ちゃったね」

エイリアンとの大戦闘が始まるものと思って映画を見始めると、いきなり主人公のダメ男=テイラー・キッチュがガソリンスタンドからブリトーを盗み出すというふざけたシーンから幕を開く。さては、個々人のミクロな物語次元と、地球が侵略されるというマクロな物語を同時進行させる気なのかと思っていると、映画は主人公の後を追い、あっという間にエイリアンとの海戦にまで至ることになる。

「好きな映画はいろいろあるんだけど、ラヴ・ストーリー、アクション、コメディ、この三つの要素の入っているものが好きだね。この映画をブリトーから始めたのは、ユーモアの部分を忘れたくなかったからなんだ。この手の作品の場合、アクションのデカさに映画全体が持って行かれがちだからね。そうならないように気をつけたつもりなんだ。ちゃんと笑えた?」

ユーモアを狙った部分よりも、クライマックスでの直球ぶりに大爆笑させられたことを伝えても、ピンと来ている様子はなかった。とするとやはり、大まじめにやっているからこその剛速球ストレートということになるのだろう。

すべてを見てきてしまったというシニシズムは、全編にわたって奇跡的なくらいに感じられない。もちろん、この映画が発見あるいは発明したものは、エイリアンと人間の戦艦同士が一騎打ちするという状況くらいなもので、それ以外の要素に、オリジナルなものはない。だが、語られている内容を、作り手が腹の底から信じられているというような、単なる「バカ」とか「生真面目」では済まされない、真摯さだけが持つことの出来る説得力を感じさせるのである。

「規模のバカみたいなデカい映画も大好きだけど、小さな映画も同じくらい好きなんだ。次回作は、アフガニスタンを舞台にした『Lone Survivor』という小さな作品になる予定だよ」

アフガニスタンを舞台にした戦闘アクションであるならば、日本の基準からすると到底小さな映画になるとは思えないのだが、いずれにせよ、またしても圧の高い破壊シーン満載の映画になるのだろう。ピーター・バーグはいつのまにやら、ローランド・エメリッヒによって奪われていたアメリカ映画の一部分を天然の腕力で奪還した男ということになるのかもしれない。

☆ ☆ ☆

『バトルシップ』
4月13日(金)、TOHOシネマズ日劇ほか全国一斉ロードショー
配給:東宝東和
(C)2012 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

□ オフィシャルサイト
http://battleship-movie.jp/

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初出

2012.04.10 10:30 | FILMS