446-pc-main

The Walking Dead

ビッチは文明の終わりを生き延びる?

ドラマ版『ウォーキング・デッド』ローリ役
サラ・ウェイン・キャリーズ インタヴュー

インタヴュー・文 写真=藤田二朗=

updated 01.10.2012

「そもそも強い男は“ヒーロー”と呼ばれるけど、強い女は“ビッチ”と呼ばれる。わたしは街中で“大っ嫌い!”っていう罵声を浴びせられることがあるけど、シェーン役のジョン・バーンサルはそんな経験していないはず。この差は、ジェンダー論的にとても興味深いと思わない?」

ドラマ版『ウォーキング・デッド』において、主人公リックの妻ローリ役を演じるサラ・ウェイン・キャリーズは、そう話した。

リックは勤務中に負傷し、昏睡状態に陥る。目覚めたときにはゾンビが大発生し、家族の行方もわからなくなっている。という風に、この物語は幕を開け、万に一つとも呼べそうな幸運によってリックは妻子と再会する。

一方ローリの側は、夫の親友でもあり同僚でもあるシェーンに付き添われて、生き延びている。病院に置き去りにせざるを得なかった以上、リックの安否は彼女から見ればほぼ絶望的。暴力の支配する世界で、ひとり息子を抱えて生きるには男手が必要である。そこに、かねてから密かな思いを寄せていたシェーンという存在があれば、必然的に、彼の力を頼ることになるだろう。ほかの選択肢はほとんどない。ローリは、リック不在の間シェーンの思いを受け入れるのである。だが、リックとの再開と共にシェーンは捨てられることになる。

原作者のカークマンもまた、「ローリは、あの状況に置かれたあの立場の女性ならするであろう極めて自然な選択を重ねてきたに過ぎない」という意味のことを語っている。だが一般的には女性がこのような選択を行った場合、「都合の良い時だけ男を利用するビッチ」という見方をされることが多い、ということを、サラ・ウェイン・キャリーズは語っているのである。特に原作におけるローリの性格はキツく、リックと合流した後も様々な不安に苛まれては感情を爆発させる。当然、ローリのそうした行動に読者が苛立たされるとすれば、それはひとえに説得力のあるキャラクター造形が故ではあるのだが。

サラ・ウェイン・キャリーズ

「いままで話したことはなかったけど」と断りを入れながら、「原作のローリは嫌いだったの」とサラ・ウェインは白状した。「いつでも怒っているから。でも、本来善良な女性が、酷い状況の中で最善を尽くしてきたのだということは理解できた。良かれと思いながら、ありとあらゆる選択を間違えてきたひとなのね。だから、感情面ではすべて筋が通っているの」

リックにとってそんなローリ(と息子カール)の存在は、死に支配された日常を生き続けるための存在理由そのものとなる。ということは、人生の重荷そのものと同義語でもあり、良くも悪くも主人公の行動原理を構成しているという意味では、ローリはこの物語の要とも呼べる登場人物なのだ。

このように、共感と嫌悪を同時に浴びる宿命を背負った役柄を演じるに際して、彼女どのように備えたのだろうか。

「シーズン1が終わる頃には、視聴者に嫌われまくっているだろうことは容易に想像できた。でもわたしの仕事は、役柄に対して正直でいること以外にない」

この言葉の後で「ただし」と付け加えて、冒頭に引いた発言が出てくる。要するに、ローリというキャラクターを単なる「ビッチ」と解釈するだけで、自らの仕事を終わらせるつもりはないのだ。ビッチと受け取られてしまう言動を繰り返すキャラクターの中に、希望の可能性を見いだし、それを育てること。それはもちろん彼女ひとりの意志ではなく、原作よりも若干明るめのトーンで展開されてゆくドラマ版においては、自然な流れによって物語がそういう方向に舵取りされてゆくということにちがいないのだが。

サラ・ウェイン・キャリーズ インタヴュー 【2/2】へ INDEX 12

初出

2012.01.10 11:00 | PICKUP