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北緯49度の百葉箱 5

土を掘る

文・写真=

updated 03.17.2015

植物を地植えするにはまず穴を掘らなければならない。種を蒔くにも、雑草や地中の根を取り除くため土を掘り返すことになる。粘土っ気のある土は夏の乾燥時、信じがたいほど固くなり、スコップも鍬もかたくなに跳ね返す。雨が多く湿っぽい秋以降はそれが嘘のようにやわらかくなるが、べとべとと道具や靴底に分厚くこびりつく。

イギリスのスパイ小説を読んでいて、汚いものは「絨毯の下に掃きこんでしまえ」という喩えに出会ったが、穴を掘って埋めてしまうというのも手だ。それが有機物なら年月をへて自然に分解し土に還る。そうでない場合は再び穴が穿たれたとき白日のもとに晒されるのだが……。

すでに何代か住人がいた家の庭土を掘り返すと、生活の痕跡が出てくることがある。プラスチック製の騎士のフィギュア、ままごとのフォークなどふだんの生活でなくなりやすい子どものおもちゃ。天然か人工か不明の黒真珠のピアスが片方。いちど、土を掘っているうちに地中から黒いポリ袋が出てきてどきっとした。何が入っているのか。なぜ埋められていたのか。不穏な想像がいやがおうにも掻き立てられ、どうしても開けて中を見ることができない。どのくらいの年月、地中にとどまっていたのかわからないが、久しぶりに日の目を見て土で汚れた小ぶりなりにずっしりと重みのある黒いポリ袋は、中身が見えないだけにいっそう不気味で禍々しくすら感じられる。仮に、こぎれいな木箱ででもあればこれほど不気味にも感じられず、ひょっとして誰かが埋めたまま忘れてしまったナポレオン金貨のようなお宝か、思い出の品を詰めたタイムカプセルかといった楽しい想像を膨らますこともできよう。だが黒のゴミ袋では、いかにも「絨毯の下に掃きこんでしまえ」とばかりに封印された類のものとしか思えない。

家人は、死んだ猫ではないかと言う。人体の一部などよりはましであるが、いずれにせよ気味が悪く、処分は家人にやってもらうことにした。地中から引き出された黒のポリ袋は家人に暇ができるまでしばらく放置され、遠巻きの視界の片隅にあっても、薄気味悪いことこのうえない。ようやく新たに掘った穴に中身があけられたときには、強烈な腐敗臭が漂った。聞くと、じっくり見たわけではないが、垣間見えた中身は液体と毛だったという。やはり死んだ猫だったのだろうか。

それにしても死体を埋めるのに、なぜわざわざ自然分解しないポリ袋に入れるのかわからない。ポリ袋の中では、自然分解もはかばかしく進まず、葬られたほうも閉じ込められたまま浮かばれないような気がする。土にじかに埋められてからは速やかに分解が完遂し、土の養分となり植物の緑を吹かせ、花色を濃くしてくれたらよい。