abrimeteo3_jardinentempsdecrise

北緯49度の百葉箱 3

危機下の庭園

文・写真=

updated 01.14.2015

九月半ばの「文化遺産の日」は、ふだん見ることのできない文化遺産指定の建造物が無料で一般公開される。歴史的建造物が集中する地区のひとつ、マレ地区へ行ったが、興味深かったのは久しぶりに見るパリの公共の庭だった。

カルナヴァレ美術館の庭園は、低いツゲ垣で植栽が囲まれた典型的フランス式庭園といえる。建物に入って上階から見下ろすとよくわかるが、外枠のツゲが直線的に剪定され、その内部にはやはり低く刈り込まれたツゲが複雑な曲線的意匠を描いている。だが、驚いたのはツゲで縁取られた植栽だった。門を入るや目にとびこんできたのは、低いツゲ垣から溢れるように伸びた、トマトと紫キャベツ。旬なのか、トマトは赤く熟れた重そうな実を三、四個ずつぶら下げ、トマトと交互に植えられた紫キャベツは「ニグロの頭」と呼ばれる品種と思われるもので、紫キャベツとはいえ、色調はふつうの植物の緑とは完全に異質な青みを帯び、それがうっすらと粉を吹いたような、薄いヴェールで覆われたような、作り物めいた外観を呈している。葉は見るからに硬質で、水をはじき輝く玉をのせたさまは、まるで人工素材だ。雨がふったりやんだりの空の下、しっとりと色を濃くした庭園で、トマトの赤とキャベツの青がたがいを引き立てあっている。べつの一角のツゲ垣内には、アーティチョークに似ているが葉柄を食用とするカルドンがそびえていた。大人の背丈にとどくほどのアザミの化け物のような姿は型破りで迫力がある。スタンダード仕立てのバラなど、ほかの植物も植えられてはいるのだが、どうにも野菜に引き寄せられて、間近でしげしげと眺めてしまう。これほど感興をもよおされるのは、単に審美的にすぐれているからだけでも、一見フォーマルな庭園に俗な野菜というミスマッチのためだけでもなく、これが食べられる物だからなのだろうか? 見てうつくしいだけではなく、いざとなれば飢えを癒せる。

トマトとキャベツを隣り合わせに植える発想は奇抜である。いや、奇抜すぎるとの思いが頭の片隅でひっかかっていた。後日、フランスの一般的な園芸書『トリュフォー』を開いてそれが氷解した。これによれば、科学的根拠の有無は不明だが、何世紀にもわたるガーデナーたちの観察によって植物に相性の良し悪しがあることが明かになっているという。たとえばナスはそばにインゲンやピーマンがあると喜んでよく育ち、マメはにんにく、シブレット、玉ねぎ、長ねぎを忌み嫌うのでその周辺に植えるのは避けるべきらしい。トマトが嫌う野菜のリストにはキャベツが入っているのであった。むかし読んだこの記述がぼんやりと記憶に残っていたのだろう。どんなからくりでか、パリの緑化職員は気性の合わない野菜の共生を実現させたようだ。

野菜が植えられた公共の庭園は、カルナヴァレだけではなかった。ポン・マリー駅そばのアルベール・シュヴァイツアー公園の花壇では、あろうことかカボチャがのうのうと這いまわり、黄色くいびつな実をごろごろと横たえていた。種々のミントやエストラゴンなどのハーブもほかの草花と肩をならべて生えている。修道院の庭園ならいざ知らず、町なかの庭園でこれほど野菜やハーブを目にすることは数年前はなかったような気がする。観賞用植物に野菜を混在させるのは、近頃の流行なのか、ひょっとして食糧不足に備えてのことなのだろうか。