abrimeteo2_limaces

北緯49度の百葉箱 2

ナメクジ

文・写真=

updated 01.08.2015

子どもの頃、ナメクジに塩をかけてどろどろになるのを観察したものだ。日本でよく目にするナメクジは薄茶色で小さなものだが、フランスで初めてナメクジを見たときは、あまりにグロテスクな姿が冗談としか思えなかった。最もよく見かける種類のナメクジは大人の親指大でオレンジ色をしている。このようなギョッとする姿でも、彼らの出没が多くなる湿気の多い秋には、保護色なのだと納得させられる。赤茶色になってまるまった落ち葉、ある種の針葉樹から落ちた長細い毬果などが露に濡れたさまは、視野のかたすみにはいった瞬間はナメクジそのものである。ぬらぬらとむき出しになった肉。

共感を覚えようもないのは外見だけではない。彼らは葉物野菜をむさぼり食ってしまう。観賞用植物でも、たとえば地中から掘り出した球根を置き忘れたりすると翌朝には大穴があいている。ギボウシをことのほか好むらしく、葉が出る先から食べてしまう。数年前に植えたはずのギボウシの姿がないので地表を注意して見てみると、硬いために食べ残されたのか、茎のつけ根から黄色く乾燥した繊維がまばらに出ている。繊維をたどると、葉はまったく出ていなくとも株じたいは大きくなっているのがわかり、吹きかけの若い芽すらかすかに見えた。まだ生きている望みを得て、有機農業用ナメクジ駆除剤として市販されている顆粒状のリン酸鉄を撒いてみたが、間隔があきすぎたのか、量が少なすぎたのか依然としてギボウシは禿げたまま。吹きかけていた若芽すら影も形もなくなってしまったのを見かねて掘り起こし、鉢にあげた。ギボウシは移植されるのを嫌うそうだが、いかんせん、そこにいたままでは生殺しである。

この種のナメクジが食べるのはしかし植物だけではない。台所前のテラスにはたき落としたパンくず、外の堆肥置き場に捨てに行く際にこぼれた生ごみにここぞとばかりに群がる。ミミズなどの死骸に群がり、歩道に放置された犬の糞にすら群がる。恐るべき雑食性。そう考えれば、ナメクジは自然界の清掃人であるとも言えよう。

とはいえ、ナメクジを跋扈させておけば庭の柔らかい葉は食べられてしまう。それに正直のところグロテスクな姿がひたすらおぞましい。二匹が輪になって番っているのなどに遭遇すると力が抜ける。とりわけ日没後から活動を始める彼らは、日が昇ってもしばらく隠れ家へもどらずくすぶっているため、午前中などはいたるところで目にする。もしニワトリでも放し飼いにすれば、あるいはハリネズミが庭に棲みついてくれれば世話がないが、そうもいかない。鳥やヒキガエルが捕食するのでおいそれと毒を盛ることもできない。ビールを満たしたプールで溺れさせる罠、先述の顆粒や灰を撒く方法など、ソフトな対策はいくつかある。だが手っとり早い駆除法として推奨されるのは、日没後、懐中電灯と古いナイフを持って外へ出て見つけたら殺すというごく原始的な方法である。それが平然とおこなえれば、どれほど楽なことか。

いちど、あまりにナメクジが多いとき家人が棒で突いて殺してまわった。わたしは目をそむけたが、圧迫の勢いが強すぎたか、ナメクジが破裂して中身が飛び散り、そばにいた子にかかったのがまるで返り血を浴びたようで、だがそれは赤い液体ではなく、黒ずんだちぢれ麺の塊のようなものだった。