朝、外に出ると細かい枝や松葉のようなものがそここに落ちていた。昨日、各地に警報や注意報が出され、停電の被害をもたらした強風が残していったものだ。
昨日の夕方、暖炉に火を入れ、番をしながら本を読んでいると、かすかな唸りのようなものを感じ、気づくと、外では強い風が吹き荒れていた。
家のなかの空気も不穏に蠢いているようで、どの窓も閉めきっているはずなのに、震動しているような気配がする。家のどこかでドアがきいと音をたて、ピアノがむっくり起き上がりそうな気さえする(しかし、ピアノは普段うずくまっているのか?)。突然、部屋のなかが翳って、顔をあげると、留め金を掛けていなかったよろい戸が、風に煽られて閉まったのだった。強風にさらされ、家が揺れに耐えている。
だが、考えてみれば、さいきん猫を飼い始めてから、家のなかでわたしの与り知らない動きがあっても、慣れつつはあったのだった。
猫を知らずに閉じ込めてしまうのを恐れ、ドアを完全に閉めないようになった。頭で押すか、前肢を差し入れて引けば、猫にもドアが開けられる程度に、隙間を開けておく。だから、誰の足音も伴わず、まるですきま風が通り抜けていったように、ドアが開くことがある。
暗い寝室で布団をかぶって寝ているとき、かちゃっとドアの開く音が夢うつつに聴こえたように思ううち、小さな足で踏みしめられたりする。机に向かっているとき、床からジャンプしていきなり机の上に現れる。その際、「ぎゅるん」という音を発する(鳴き声とは別種の、喉を鳴らす音に近い音を着地時に発するのだ)。後ろからついて来ていると思ったのに、急に姿が見えなくなったときょろきょろしてから前を見ると、そこにいる。画面から忽然と姿を消し、切り替えしショットでいきなり現れびっくりさせるホラー映画だ。