abrimeteo4_lachasse

北緯49度の百葉箱 4

狩猟愛

文・写真=

updated 02.19.2015

日曜日、久しぶりに出掛けようとパリのピカソ美術館へ向かった。長いあいだ改装工事のため閉館していて、再オープンしたのが昨秋。当初の人出もそろそろ落ち着いてきたころだろうと思ったが、甘かった。美術館のあるブロックにさしかかると長蛇の列が曲がり角まで続いている。その日は二月一日、多くの美術館、博物館が入館無料になる月初めの日、人気の美術館は避けるべき一日だった。列の最後尾まで近づいてみるまでもなくあっさり断念し、別の方策はないものかとそのまま歩き続けるうち、「狩猟と自然の博物館」の表示板が目に入った。そんな博物館の存在は知らなかったし、もし知っていたとしてもわざわざ足を運びはしなかっただろう。だが、当てがはずれて狼狽えていたのか、ふらふらと入ってみた。どうせ入館無料である。

建物は昔の個人邸宅のような構えだった。受付から階段を昇っていくと左右に展示室の入口が見え、右側は「猪の部屋」、左側は「武器の部屋」とある。「武器」のほうから入ってみると、最初の展示室は剥製が所狭しと陳列されていた。外は小雨だったがそのせいだけだろうか、なかの空気がむっとこもったような生暖かい感触がする。入口正面のガラスケースには、たぶんこの博物館の目玉なのだろう二頭の白豹が並んで立っている。細長い展示室の壁はガラス張りの陳列棚で、人の背丈ほどもある大時代な銃が縦にびっしり並べられ、棚の上方の壁面からは動物の頭部が無数に突き出ている。立派な角をつけたアラスカヘラジカを筆頭に様々な鹿の仲間、バイソンなどの牛の仲間、猪の仲間……。そのうちのアルビノらしい白い猪は、物を食べるのに支障があろうと思われるほど上下の牙が不恰好に長くとび出している。それが愛嬌ある顔だとでも判断されたのか、その頭部だけは、なぜか電気仕掛けでうめき声のような音声に合わせ口をわずかに開け閉めしていた。

続きの部屋もすべて狩猟にまつわるものが展示してある。ある部屋は壁面がタブローで覆いつくされているが、描かれているのはすべて猟犬。犬の名前と思われるものが絵に書き込まれていたり、たぶん実在した猟犬なのだろう、まるで肖像画に描かれる貴人の扱いだ。調度品の椅子のうち、肘掛と背もたれ部分にヘラジカの角が嵌めこまれたものが二脚あった。ふんだんにつかわれた角は文字どおり取って付けたようで、座り心地がよさそうにも見えなければ、椅子として美しいとも思えない。どの部屋も城や邸宅で目にするような、いちいち巨大で荘厳な内装だが、気のせいか色が濃いめで陰惨な雰囲気がする。

ある部屋の真ん中には巨大なバイソンの剥製が置かれていた。黒ずんだ色といい量感といい銅像のようである。傍らのテレビ画面にコマーシャル映像のようなものが映し出されている。ちょうどシェフが野菜を彩りよく盛り付けていて、パーティーの準備風景のようだ。展示物との関連がよくわからないまま見ていると、こんどは給仕人が皿を台のようなものに設置している。画面の端に見える台の黒っぽい隆起がバイソンの臀部だということに思い当たった。気にも留めていなかったが、展示されている剥製バイソンの背中には横に切込みがあり、それが蓋になって開ければご馳走を満載できるビュッフェ・テーブルとして使えるのだった。

博物館を出て、妙に白っぽく見える通りを歩くとヴェジタリアン・レストランやヴェーガン・カフェが並んでいた。