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散歩の凡人15 秋葉原その三 

ああインターナショナル、我等が萌え

文・写真=

updated 01.28.2015

池波正太郎行きつけの店(竹むら)と萌えキャラ(『ラブライブ!』の穂乃果)の結びつきは、ロートレアモン言うところの「解剖台の上でのミシンと蝙蝠傘との出会い」のようなものかもしれない……などと益体もないことを考えながら万世橋を渡ると、そこはもうアキバであった。いまや一大産業と化した萌えの王国である。

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2003年に出た森川嘉一郎『趣都の誕生〜萌える都市アキハバラ』(幻冬舎)によれば、秋葉原の本格的なオタク街化が始まったのは1997年のことらしい。ガレージキット専門店が一気に秋葉原に進出したことがきっかけという。家電の街からパソコンの街へ移行した後、オタクの街へ変貌を遂げたというのが森川の見立てである。

改めて指摘するまでもないが、秋葉原ではアニメ絵の美少女(二次元)が描かれた巨大な屋外広告が目につくし、店頭にも大小さまざまなポスター類が貼られていて、オタクの街としてのアキバはますます活況を呈している。加えて、メイド喫茶の店員(三次元)が客引きをする姿も見かけるから、こうした二次元と三次元の幸福かつ錯綜した重なりあいを目のあたりにすると、凡人などは軽いめまいを覚えてしまう。21世紀のシュルレアリスム都市。ここでは電気部品と同じく、超現実の光景すら軒先にごろんと転がっているのである。

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三次元といえば、2005年にはAKB劇場が誕生した。言わずと知れたAKB48の本陣である。いま振り返ると「会いに行けるアイドル」というコンセプトは斬新であると言わざるをえないが、凡人は凡人であるがゆえに「会いに行けるアイドルはアイドルではない」という保守的な立場を採っており、すなわちAKBファンと凡人との間には深くて暗い川が流れている(なお、凡人は作品至上主義者でもあるから「恋するフォーチュンクッキー」は高く評価する)。

ところで、これほど広範囲にまたがるオタクの街は世界を見渡しても類例がなく、そのためアキバは海外からの渡航者が立ち寄るスポットとして人気が高い。実際、秋葉原ではいたるところで外国人観光客を見かける。といって、彼らの多くは真正のオタクというわけでもないのだろう。マンガやアニメ、ゲームやフィギュアにのめり込んでいるというより、オタク的な意匠が織りなす、めくるめく都市風景を無心に楽しんでいるだけなのである。

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外国人観光客を当て込んだ商売も繁盛している様子である。万世橋から末広町に向かう中央通り、いわばアキバの一等地とも言うべき場所に、アッキーインターナショナルが運営する免税店が3つも店舗を構えている。店内に足を踏み入れると、中国語、ロシア語、英語、スペイン語、ハングル等々で歓迎の言葉が色鮮やかに記されていて賑々しい。並んでいる商品はデジカメ、PC(OSは英語版らしい)、家電、時計、フレグランス。このあたりは予想もつくが、炊飯器や水筒、弁当箱、爪切り、ランドセルには意表を突かれてしまった。パイロットのボールペン「フリクション」も人気のようで、こすると消える機能は、きっと Cool! なのだろう。

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実用品だけでなく土産物も充実しているのであるが、そこここにフジヤマ、ニンジャ、キモノといったイメージが散らばっており、日本にいながらにしてエキゾティック・ジャパンが存分に楽しめる。凡人は手裏剣を買おうかどうしようか10分ほど迷ったものの、結局、買わずに店を出てしまった。それにしても、なぜ忍者はこんなに人気があるのだろう、と思ったのもつかの間、そういえば『NARUTO 』は世界中で読まれているというではないか。うっかりしておりました、日本は忍者の国で間違いございません。

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