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散歩の凡人05 有楽町編その二

2014年の銀ぶら

文・写真=

updated 06.04.2014

凡人の凡人たる所以は、発想や行動が凡庸なところにある。よって「五月晴れで天気も良いことだし、有楽町に下り立ったからには、足の向くまま気の向くまま、銀座をぶらぶらしてみようではないか」と考えたところで別段不思議はない。

さて、有楽町駅の中央口を銀座方面に出ると、正面に有楽町イトシアがそびえたっている。丸井が入っているため、20代の女性が多いという印象で、相応の華やかさがある。有楽町マリオンの吹き抜けを抜けると、阪急MEN’S TOKYOの入り口付近に、スーツに身を包んだサッカー日本代表の面々。アルフレッドダンヒルの広告である。2014年6月にはブラジルでワールドカップが開催されるのだ。

数寄屋橋交差点を渡れば、右手にはエルメス、コーチ、ジョルジオ・アルマーニ、左手にはギャップ、グッチと、海外ブランドの店が並ぶ。ギャップを除けば、4軒とも高級店。銀座はある時期から、銀座百点会に加盟しているような老舗に加え、海外の高級ブランド、さらには国内外のファストファッションのショップが混在するようになった。

銀座4丁目交差点の角にある和光ビルは、むかしもいまも銀座のシンボルとしての役目を果たしている。この日、ショーウィンドウの前では中東系の外国人観光客が写真を撮っていた。その角を京橋方面へ進もう。木村屋であんぱんを買った後、教文館で「銀座マップ2014」(教文館)と坪内祐三監修『銀座通・道頓堀通』(廣済堂出版、2011)を購入。後者は初めて目にした本で、昭和初期に出た小野田素夢『銀座通』(四六書院、1929)と日比繁治郎『道頓堀通』(同、1930)をカップリングした珍品だ。

アップルストア、シャネル、カルティエの前をぶらぶら歩いていくと、銀座一丁目駅の近くにトラヤ帽子店がある。なんとなく麻のワッチキャップを購入したものの、本当のことをいえば、ボルサリーノの「トラベラーズスナップブリム」が欲しい。いつになったら買えることやら(凡人は倹しく暮らしているので)。

道路の反対側に渡り、今度は新橋方面へ逆戻り。英國屋でスーツを仕立てることは、おそらく一生ないであろうと思いつつ、ティファニー、ブルガリ、ルイ・ヴィトンのきらびやかなショーウィンドウを眺めてから、伊東屋でエルコの業務用封筒を購入。エルコはスイスの文具メーカー。1935年に世界で初めて封緘シール付の封筒を製造したことで知られている。なお、伊東屋は建て替えのため、現在は松屋銀座の裏手に仮店舗を構えている。

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松屋銀座、銀座三越を素通りし、三越角のライオン像を歌舞伎座方面に曲がると、2013年3月末に閉館した銀座シネパトスの広告塔が侘びしい姿を晒している。国内最古の地下街・三原橋地下街の開業は1952年。地下街とその入口部分の建物はフランク・ロイド・ライトの弟子筋にあたる土浦亀城(1897-1996)が設計した。2014年4月25日、三原カレーコーナーの休業をもって、すべての店舗が閉店もしくは移転。後は解体を待つばかり。

ふたたび中央通りに戻り、新橋方面へ。銀座六丁目の松坂屋銀座店も2013年6月で閉店。現在は更地となり、再開発の計画が進んでいる。夏場に屋上のビヤガーデンでジョッキを傾けたことを思い出す。ビールといえば、松坂屋並びの銀座ライオンは日本最古のビヤホール。2014年で80周年を迎えた。店内正面の大型ガラスモザイク壁画はたしか創建当初のままで、映画『帝都物語』(1988)にも登場していたはずだ。

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その先にはZARA(スペイン)とH&M(スウェーデン)が仲良く出店。ユニクロ(日本)の旗艦店も加えると、ファストファッション花ざかりといったところか。H&Mのあたりは外国人観光客を乗せたバスが横付けしていることも多く、パトカーが「運転手さん、すぐにバスを移動させてください」などとアナウンスしている光景も見かける。

そろそろ休憩の頃合だ。銀ぶらの締めくくりは、喫茶文化発祥の地、カフェーパウリスタへ。パウリスタオールドとザッハ(チョコレートケーキ)を注文し、トラヤ帽子店で貰った「銀座百点」最新号の頁をめくるとしよう。家に帰る前には資生堂パーラー裏手の金春湯で一風呂浴びようか。

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追記:銀ぶら(銀ブラ)とは一般に「東京の銀座通りをぶらぶら散歩すること」(大辞林第三版)と捉えられているけれど、長谷川泰三『カフエーパウリスタ物語』(文園社、2008)によると、もともとは「銀座のカフエーパウリスタでブラジル珈琲を飲むこと」だったとの由。慶応義塾大学の学生が言い出したそうで、彼らにとっての銀ブラの道順(三田から芝公園を抜け、増上寺、大門、日陰町を過ぎて、新橋ステーションから銀座カフエーパウリスタへ)も紹介されている。