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散歩の凡人16 御徒町その一

朝寝朝酒朝湯が大好きで

文・写真=

updated 02.02.2015

秋葉原駅の電気街口方面から御徒町駅に向かってしばらく歩くと、高架下に肉のハナマサがある。向かい側ではロボット専門店のテクノロジアが営業していて、実にこの地域らしい光景である。つまりここでは夕食用の鶏肉を買った後、手頃な二足歩行ロボットを探すことができる。こんな未来は手塚治虫も星新一も描いていない。

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肉のハナマサのところの横断歩道を渡ると景色が変わる。「2k540 AKI-OKA ARTISAN」があらわれるのである。株式会社ジェイアール東日本都市開発が運営する“ものづくりの街”だそうだが、この記号めいたネーミングにはどんな意味があるのか。秋葉原駅と御徒町駅の間にある高架下を利用しているから、AKI=秋葉原、OKA=御徒町ということはわかる。ARTISANはもちろん職人という意味で、ここにはいくつもの工房兼ショップが並んでいるから、これもまあわかる。問題は「2k540」である。構内に置いてあったリーフレットを開くと、「起点となるターミナル駅『東京』から2k540mに位置する。鉄道用語では用地を起点からの距離『キロ程』であらわすことから『2k540/ニーケーゴーヨンマル』と名付けられた」。ははあ、そうでしたか。ひねりをきかせたつもりが、ちとわかりづらくなってしまったような気もするが。

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残念なことに凡人好みのものは置いておらず、通路を素通りするだけで終わった。ひとつだけ目に止まったのは、秋葉原方面の入口近くにひっそり鎮座しているD51型蒸気機関車(デゴイチ)の汽笛。なぜそんなものがここに展示されているのか、理由は知らない。  2k540を出て、さてどうしよう。この先にある自転車屋でものぞいてみるか……と思った矢先、朝風呂で有名な銭湯のことを思い出す。勘を頼りにうろうろしているうちに、ああ、あったあった、いかにも銭湯といった感じの屋根瓦が見えてきた。時刻は11時。朝湯というにはだいぶ日が高くなってしまったが、午前中であることには変わりない。

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財布の中に1枚だけ都内共通入浴券が残っていたから、それを番台に差し出し、「石鹸いくらですか」と尋ねると「浴室にボディソープとリンス・イン・シャンプーを用意しています。そちらをお使いくださっても結構ですが」。凡人はこうした気配りのある銭湯が好きである。タオル1枚で気軽に立ち寄れるから。

正面入口の屋根瓦も堂々としたものだが、浴室も昔ながらのつくり。3階分が吹き抜けになっているのである。天井が高いと気持ちが良いねえ。昔ながらの銭湯といえば、ペンキ絵の富士山も欠かせないが、燕湯にもペンキ絵が残っている。……のだが、おや、富士山ではなく摩周湖の絵が描かれているではないか(後から気づいたが、脱衣所には摩周湖の観光ポスターも貼られていた)。熱い湯船につかりながら北海道の風景を眺めるのも楽しい。

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ペンキ絵には「ナカジマ 2014.4.21」とサインが入っており、このナカジマというのは有名なペンキ絵師・中島盛夫氏のことに違いない。2014年というから新作である。いま、何の考えもなしにペンキ絵と書いたけれど、中島氏のホームページをのぞくと、ご自身では「背景画師」という呼び方をしている。プロフィールには「初めてローラー使いを考案し、背景画制作の時間短縮に貢献」とあり、どこの世界でも技術革新というものがあるのだなと感心。

燕湯にペンキ絵の富士山はないが、富士山の溶岩を組み上げてつくった岩山ならある。あるとき都内各所のミニ富士を訪ねまわったことがあるが、凡人としては燕湯の岩山もミニ富士として拝みたい気持ちになる。いま富士山は国の管轄下にあり、溶岩を持ち出すなんてことは自然公園法で禁じられている。だからこれはとても貴重な設えである。

長風呂をするとのぼせてしまうし、朝風呂はさっさと済ませてしまうに限る。脱衣所で少し涼んでから、湯冷めをしないよう、とっとと着替えて外に出る。いい風呂でした。

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